夫婦波?いいえ、”婦夫波”です 和歌山すさみ町・黒嶋茶屋

和歌山県南部にある、すさみ町。
今年の1月に、44年の歴史に幕を下ろした1軒のお店がある。

すさみ町

付近の海は、「枯木灘」と呼ばれて、もっぱら関西で海釣りに出かける人にはおなじみだろうと思う。すさみ町の中心部、周参見駅よりも一つ南側に位置する見老津駅が最寄り(と言っても徒歩で20分オーバーだけど)の「黒嶋茶屋」が今回訪れたお店だ。

黒嶋茶屋

国道42号を走ったことのある人は、見覚えがあるかもしれない。「婦夫波」とデカデカと書かれた看板が黒嶋茶屋の目印。国道沿いのお店らしく、大きめの駐車場が備わっている。

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恋人岬と婦夫波

黒嶋茶屋の敷地には、恋人岬がある。ここでは左右から打ち寄せる波、婦夫波を見下ろすことができる。”夫婦”ではなく”婦夫”なのは、女性の活躍や地位向上を意味してのことだそう。春から秋にかけては、南国ムード満点のブーゲンビリアも綺麗に咲き、夏の夕暮れ時にはドライブ中のカップルが景色を楽しんでいる姿がよく見られた。あいにくこの日は冬の曇り空で、そんな様子は見られなかったけれど…。

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入店

午前10時頃について、モーニングを注文する。私たちのほかにお客さんはおじいさん一人だけだった。注文した飲み物とモーニングはすぐに出てきたので、早速いただく。窓の外の広い広い太平洋を眺めて無言で食べていると、さっきまで新聞を読んでいたおじいさんがママさんに声をかけた。ちらりとそちらの方へ目をやる。「ほんとにやめるの?…残念だね……明日、最後来るからね」そのまま店を出たおじいさんの背中は本当に寂しそうに見えた。気持ちがもっていかれそうな、そんな不安を一瞬感じて、すぐに視線をテーブルに戻した。

高速道路ができて…

食事が終わって会計をするときに、ママさんに少しお話を伺うことができた。「高速道路ができて便利になったんだけど、前の道(国道42号線)は車減っちゃったんだよね。お店閉めるのはそれが理由なわけではなくて、他にもいろいろあって」と、あっけらかんと話す。とてもにこやかなママさんで、最後にお話しできて本当によかった。

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屋上からの景色

「ここ、実は屋上があるの。普段は立ち入り禁止にしてるんだけど、ぜひ写真撮って帰って」と言っていただけたので、お言葉に甘えて入らせていただいた。屋上でみる太平洋は格別だけど、この景色も、使い古された恋人岬の看板も、二度と見ることはないだろう。

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ありがとうございました、と声をかけて帰ろうとしたところ、ママさんが「記念に一緒に撮りませんか」とエプロンからスマホを取り出した。「喜んで、こちらこそお願いします」と入口前に並んで写真撮影。この冬のどんよりとした曇り空とは対照的に、ママさんは晴れやかな優しい笑顔だった。昭和のころから続くお店がまたひとつ消えてしまったけれど、最後を見届けることができたのだから私も晴れやかな笑顔でママさんとお別れをした。

「おつかれさまでした。おげんきで」

黒嶋茶屋
2016年1月末閉業